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旅を綴った文化人たち

歌人や芸術家の目を通して
描写された山水美
旅を愛した作家・田山花袋の『旅の詩と歌と』から始まる『旅』の創刊号。大正時代の旅は「山水への旅」と言われ、若山牧水、高浜虚子、河東碧梧桐ら作家や歌人・俳人らの叙情的な随筆や歌が誌面を飾りました。
昭和に入るとスキー・登山・ハイキング・テニスなどのスポーツも盛んになり、「夏の登山号」「国立公園号」などの特集では植物分類学者の牧野富太郎や登山家でもある作家の深田久弥らも原稿を寄せています。
藤田嗣治、猪熊弦一郎、鏑木清方、堂本印象、東山魁夷といった画家も多く名を連ね、芸術家の目を通して山水への旅が美しく描写されました。
1924年(大正13年)
田山花袋『旅の詩と歌と』
若山牧水『紅葉の歌』
1932年(昭和7年)
牧野富太郎『二三の高山植物に就て話す』
1935年(昭和10年)
宇野千代・林芙美子ら5氏座談会『婦人と旅』
深田久弥『山奥の湯』
1936年(昭和11年)
内田百閒『鉄道唱歌』
与謝野晶子『瀬戸内海』
1938年(昭和13年)
藤田嗣治『自慢していゝモンペ』
武者小路実篤『愛郷心と旅』
1941年(昭和16年)
猪熊弦一郎『南仏の冬』
…など
田山花袋『旅の詩と歌と』1924年(大正13年)創刊号
田山花袋『旅の詩と歌と』1924年(大正13年)創刊号
与謝野晶子『瀬戸内海』1936年(昭和11年)9月号
与謝野晶子『瀬戸内海』1936年(昭和11年)9月号
日本を縦走する不朽の
トラベルミステリーが誕生
戦後の目覚ましい復興により、交通事情の回復と拡充、宿泊施設の整備が進み、人々の旅行熱も高まりを見せるように。前年に運行開始した夜行特急「あさかぜ」や国鉄の周遊券発売をきっかけに、日本各地を舞台に展開された松本清張の連載『点と線』がスタート。
昭和30年からは毎号特集制を導入。「日本3大温泉最新ガイド」特集(1962年3月号)には寺山修司『寛一の苦悩、熱海の憂鬱』、平岩弓枝『雨の白浜』が寄稿されるなど、特集にあった紀行や随筆が掲載されるようになりました。森繁久彌や石原裕次郎ら俳優も度々寄稿していました。
1949年(昭和24年)
柳田國男『東国古道記』
谷崎潤一郎『京洛その折々』
1950年(昭和25年)
柳宗悦『津軽の刺こぎん』
1951年(昭和26年)
三島由紀夫『高原のホテル』
井伏鱒二『つらら』
白洲正子『郷愁の町』
1952年(昭和27年)
室生犀星『ふるさとは遠くにありて想うもの』
1955年(昭和30年)
井上靖『伊豆生まれの伊豆礼讃』
1957年(昭和32年)
松本清張『点と線』
1960年(昭和35年)
岡本太郎『四十才過ぎからスキーに惚れて』
1962年(昭和37年)
寺山修司『貫一の苦悩、熱海の憂鬱』
1963年(昭和38年)
開高健『すべては「八岐の大蛇」』
北杜夫『あなたを船旅ファンにしよう』
森繁久彌『島を買って王様になる気分』
石原裕次郎『雪を見ればハッスルするぞ!』
1964年(昭和39年)
水上勉『日本の底辺紀行シリーズ』
…など
松本清張『点と線』1957年(昭和32年)2月号
松本清張『点と線』1957年(昭和32年)2月号
室生犀星『ふるさとは遠くにありて想うもの』1952年(昭和27年)12月号
室生犀星『ふるさとは遠くにありて想うもの』1952年(昭和27年)12月号
空前の旅行ブーム!
作家らの個性溢れる視点が誘う旅
東京オリンピックや大阪万博、国鉄のキャンペーン、海外旅行の自由化などにより空前の旅行ブームが訪れます。旅のスタイル、テーマも多様化し、市場での買い物や料理を好んだ檀一雄による食味紀行、熱心な釣り師でもあった開高健による「私の釣魚大全」など、作家らの独特な視点が誘う紀行連載が好評。
阿川弘之や種村直樹、宮脇俊三らが書き綴る鉄道紀行の数々は、九州・北海道・四国と次々に鉄路がつながり、新幹線延伸とSLの衰退といった時代と地方の変わりゆくさまを伝えました。
昭和の終りから平成にかけては、藤森照信や南伸坊ら路上観察学会の面々や泉麻人、みうらじゅんらによる個性的でユーモラスなルポや連載も増えてきました。
1965年(昭和40年)
幸田文『若いうちに、ひとり旅を』
檀一雄『諸国珍味巡り』
1967年(昭和42年)
司馬遼太郎『京への七口合戦譚』
1970年(昭和45年)
遠藤周作『悲劇の山城たち』
1971年(昭和46年)
三國連太郎『風来坊旅行』
やなせたかし『ひとりで山へゆく女房』
池波正太郎『地上170メートルに結ぶ夢』
1972年(昭和47年)
筒井康隆『道後温泉、日本最古のヘルスセンター』
1974年(昭和49年)
寺山修司『新宿-孤独の街』
1975年(昭和50年)
宮脇俊三『時刻表のできるまで』
1976年(昭和51年)
沢木耕太郎『相模野でワイン造り30年』
1978年(昭和53年)
森村誠一『霧積温泉での“邂逅”』
田辺聖子『世界の赤提灯はしご行』
1981年(昭和56年)
落合恵子『祭りの華・からくり人形の里へ』
向田邦子『沖縄胃袋旅行』
椎名誠『わしらは“オカシ”な探検隊、帝都のダンゴ屋を極めつくすのだ』
1983年(昭和58年)
手塚治虫『「火の鳥」のロマン』
1987年(昭和62年)
嵐山光三郎『さい果てのローカル線ロマン旅』
藤森照信『温泉建築ウォッチング』
島田雅彦『トルコ4000kmを走る』
1996年(平成8年)
安西水丸『安西水丸のふらりひとり旅』
南伸坊『南伸坊の実体験歴史の旅』
2003年(平成15年)
酒井順子『旅する凡人』
関川夏生『オホーツク発、銀河行き』
泉麻人『終着駅は宿』
…など
やなせたかし『ひとりで山へゆく女房』1971年(昭和46年)3月号
やなせたかし『ひとりで山へゆく女房』1971年(昭和46年)3月号